潜水艦とタンカーの接触事故


第10管区海上保安本部(鹿児島市)によると、21日午前9時50分ごろ、宮崎県日南市油津港の東約50キロの海上で、浮上訓練中だった海上自衛隊の練習潜水艦「あさしお」(2900トン)が、パナマ船籍のタンカー「スプリングオースター」(4160トン)と接触した。タンカーはそのまま南西に向かった。あさしおのかじが変形したが、双方の乗組員にけがはないという。

防衛庁海上幕僚監部によると、海面に近づいたあさしおは航行音が聞こえたため、再び潜航した。その際に後部のかじが接触したとみられる。海上自衛隊呉基地(広島県)の第1練習潜水隊の所属で、20日に呉基地を出航し、長崎県の佐世保基地に向かっていたという。全長86メートル、幅10メートルで97年に完工し、00年に練習艦となった。

10管によると、タンカーは現場海域で衝撃を感じたが、周りに船が見当たらず航行を続けた。当時は中国に向けて航行中で、フィリピンと韓国の乗組員17人がいた。
10管によると、午前11時現在、あさしおは油津港の東50キロ、タンカーは南東30キロを航行中で、巡視船や航空機が現場海域に向かった。10管は、あさしおは油津港、タンカーは鹿児島県志布志港に入るよう求めており、入港後に関係者から事情を聴く方針だ。
海自は海上幕僚監部監察官を長とする事故調査委員会を設置。事故原因の調査に乗り出した。
2006年11月21日13時18分 asahi.com



(引用: asahi.com)


コメント


船舶や航空の世界では昔からコリジョンコース(Collision Course)という言葉があり、一般社会でも事態が悪化の一途をたどるような場合に例えとして使われている。しかし、その意味がヒューマンファクター専門家の間でもあまり理解されていないために、衝突事故の再発を許している。


コリジョンコース
2次元平面や3次元空間で自由に移動する物体が衝突する確率は極めて小さい。しかし、上図のように物体Aと物体Bが互いに接近していて、AとBの両方、あるいは片方の操縦者が衝突の危険を感じた場合には衝突の可能性が格段に増加するばかりか、ほとんど確定的といってよいほど衝突への運命をたどる。
これは、近づいてくる相手に脅威を感じた操縦者の潜在意識が本能的に顕在意識を抑制して視覚や聴覚などの対象を固定するためで、その後はAとBの相対的な位置関係が平行移動して衝突に至る。
例えどちらかの操縦者が顕在意識を維持していて衝突を避けようとしても、もう一方が潜在意識で行動していれば、それを追いかけるように行動して結局は衝突に至る。
潜在意識によるこの現象は日常生活においても経験されている。狭い道で二人の人間が相対する時には、一瞬、二人は同じ側に避けようとする。また、「あっち向いてホイ」という子供たちの遊びでは、人間は潜在意識で指先を追って顔や目を動かしてしまう。
船舶の法律では、下図のように、相手の船舶を右舷に見た船舶が相手の航路を避けるよう規定されている。 


海上衝突を避けるためのルール
しかし、この規則が守られるのは両方の船舶の操縦者が顕在意識で行動している場合に限られ、潜在意識では規則を守ることは難しい。
航空機にも衝突防止装置(TCAS-II : Traffic alert and Collision Avoidance System-II)が装備されており、航空機どうしが接近した場合には互いに異なる高度方向に避けるようコンピューターがパイロットに警告を発するが、潜在意識で行動するパイロットはTCASに従わず、あえてコリジョンコースを選んでしまう。JALの907便(747)と958便(DC-10)が、907便のTCAS無視で十数メートルの距離にまで近づいたミアミスはその典型といえる。
1971年7月30日、ANAの便(727-200)と自衛隊戦闘機が岩手県雫石上空で衝突するという事故が発生しており、自衛隊機のパイロットが裁判で刑事罰を受けたが、これは、潜在意識の中でコリジョンコースに乗ってしまったことを自衛隊機のパイロットが主張できなかったことと、航空界を含む社会がコリジョンコースを理解できていなかったことが原因と思われる。
今回の潜水艦とタンカーの接触事故は2001年2月9日にハワイのオアフ島沖で発生した海洋実習船愛媛丸と米原子力潜水艦の衝突事故と酷似している。両潜水艦とも、相手船のスクリュー音を潜在意識で追っている過程でコリジョンコースに乗ってしまった。愛媛丸の事故の調査には米国NTSBのヒューマンファクターの専門家が参加しているが、コリジョンコースが原因であることを指摘できなかった。
コリジョンコースはその他にも世の中に多数存在している。古くはタイタニック号がカナダ沖で、最近では石油タンカーのエクソンバルデス号がアラスカで氷山と激突したのも、氷山の存在に気づきながらコリジョンコースを避けきれなかったことが原因と考えられる。
1979年11月28日にニュージーランド航空のDC10が南極の遊覧飛行中にエレバス山に激突しているが、その原因はホワイトアウトという現象とされているものの、一種のコリジョンコースと考える方がわかりやすい。
地方には、見通しがよいのに衝突事故が多発している「魔の交差点」が多く存在しているが、これもコリジョンコースといえる。北海道が全国で交通事故率がトップである要因の一つでもある。
9.11テロの首謀者は、コリジョンコースの原理を悪用して、実行犯をマインドコントロールすることによりハイジャックした航空機を貿易センタービルに精確に激突させた。実行犯はほとんど潜在意識で操縦していたとみられる。いくら優秀なパイロットでも、鈍重な大型民間航空機を顕在意識で標的に精確に衝突させることは難しい。
原子力潜水艦やタンカーがこのような衝突事故で損傷した場合の被害の深刻さ計り知れない。コリジョンコースからの脱出は、顕在意識を前提とした法律や規則、衝突防止警報では難しいが、当社が開発したヒューマンファクター訓練やヒューマンファクター設計は操縦者に対して有益な示唆を与えることができる。