| 米国の医療安全の現状 |
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1999年11月30日のWashington Post誌に下図のような米国における医療事故死亡者数が掲載されて社会的な反響を呼んだ。 |
| この統計に関しては若干の異論もあるが、これによると、米国では年間に約98,000人が医療事故で死亡しており、これは米国人の死亡要因の第5位に位置付けられ、第8位の自動車事故に死亡者数約44,000人の2倍以上に相当することがわかる。 |
| 医療事故が顕在化すると医事紛争が発生することがほとんどであり、米国では年間で約98,000件の維持紛争があるということができる。因みに、厚生労働省が毎年発表しているわが国における維持紛争の数は1,000件前後であり、日米の間で顕著な差が見られる。 |
| 米国は大変な医事紛争社会といっても過言ではなく、俗に、米国の病院では依頼人を求めて大勢の弁護士が待機しているといわれている。 |
![]() 米国の医療事故死亡者数 |
| コメント |
| 日米で医事紛争の数に大きな差が見られる理由として以下の四つの要因が考えられる。 1.日米では医療事故あるいは医療ミスの定義に違いである 2.米国では直接の医療従事者だけでなく、周辺の関係者のエラーも医療ミスとみなされる。 3.米国では早くからクリニカルパスという医療の標準化、ディジタル化が進んでいる。 4.日米で司法制度に大きな違いがある。 |
| エラーは実行エラー(Commission Error)と不実行エラー(Omission Error)の二種類に大別される。実行エラーとは行動の内容が不十分であることであり、不実行エラーとは必要な行動をとらないことである。医師およびその指示を受けた看護師が人間の身体に処置を及ぼすことを法的に許されている唯一の存在であることは洋の東西で変わりはない。医療ミスは意図的なものではなく、意図的であれば犯罪(Climinal Misconduct)ということになるが、それが維持紛争で争われる。 |
| わが国では医療事故に刑法の業務上過失致死罪が適用されるために、不実行エラーを医療ミスとすることには抵抗があるが、主として民事事件として扱われる米国では不実行エラーも医療ミスとして扱われ、莫大な額の損害賠償請求の対象となる。 |
| 米国では、医療関係者が現代の最先端の医療の知識や技量(State Of The Arts)を習得しないでエラーをした場合には不実行エラーによる医療ミスとされる。そのために米国では、大病院の勤務医だけでなく、わが国の開業医に当たる医師や看護師までもが常にセミナーや学会などで新しい知識や技量を習得せざるを得ない状況に置かれている。 |
| 直接の医療従事者以外の関係者のエラーが医療ミスとされる一例が、航空機内における心臓疾患による乗客の死亡である。心臓疾患の救命率は下図のように1分ごとに1/10低下するといわれており、乗客の中に医師や看護師を探して処置を遅らせることは医療ミスとされる |
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| そのために米国の航空会社は早くからAED(自動体外式除細動器)を機内に搭載して客室乗務員にその使用を訓練していた。わが国の航空会社も最近、これに倣っている。米国では、本人の同意なしに公衆の面前で女性の上半身を裸にすることを問題視する向きもないわけではない。 |
![]() 米国における客室乗務員のAED使用訓練 |
| 米国では1980年代からクリニカルパス(Clinical Pathway)という医療の自動化、標準化、ディジタル化が勧められており、このことも医療ミスの増加と無関係ではない。 |
| 医療界のクリニカルパスや産業界のISO9001は、そもそもはエラーをなくすために航空界の信頼性管理体系(Reliability Monitoring System)に倣って導入したシステムであるが、多重性や冗長性によりエラーが俄かには事故に結びつかないように設計されている航空システムのやり方を医療や一般の産業界にそのまま導入することの妥当性を問題視する論議もある。 |
| 信頼性管理体系(Reliability Monitoring System)は航空界でもすでに見直されはじめており、AQP(Advanced Qualification Program)などの180°概念を異にするヒューマンファクターの手法が導入されようとしている。「わが国の医療界も航空界に学ぶべき」という考えは必ずしも妥当ではない。 |
| 米国の司法制度では陪審員制度が採用されており、陪審員の客観的な常識に反した専門的な言い訳は通用しない。医療関係者としての努力の欠如による不実行エラーが医療ミスと見なされるのもそのためである。 |
| 米国ではわが国とは違って弁護士資格を比較的容易に取得することができ、弁護士に転向する医療関係者も多く、法廷の前に弁護士どうしの専門的な話し合いが行われる。陪審員を納得させることができそうもない専門家の言い訳はこの段階で排除される。 |
| わが国も米国に倣って司法改革が進められており、裁判員制度や法科大学院制度が導入されている。法科大学院には医師経験者も入学しており、従来の司法試験を経て弁護士資格を得た医師もすでに200人を超えている。このような状況から、わが国も数年後には米国のような医事紛争社会に変化することは必至であり、維持紛争の数も急増するものと予測される。 |
| 医療ミスかどうかを判定するには高度の専門的知識を要するために、医療事故が起こった後で法律の知識しかない弁護士が弁護することは難しく、医療関係者は新たな対処法で臨む必要がある。 |
| 医事紛争社会では医療事故保険などによる担保は困難となる。 |
| 弊社は医療従事者が維持紛争を避ける方法としては次の二つしかないと考えている。 1.潜在意識に焦点を当てた最新のエラーマネージメントで医療事故の防止に最大限努力する。 2.不幸にして医療事故を起した際には、上記1.の努力を被害者および関係者に理解してもらう。 |