| 事故概要 |
| 26日午後5時20分ごろ、神奈川県茅ケ崎市代官町のJR東海道線伍仁原踏切内で、藤沢市善行坂、会社員、笹山謙治さん(40)のトラック荷台からショベルカー(2.5トン)がずり落ちて横転、線路をふさいだ。踏切内の異常を知らせる装置が作動し、接近していた国府津発東京行き普通電車(10両編成)が踏切の約30メートル手前で停車。けが人はなかった。 |
| 県警茅ケ崎署の調べでは、踏切の高さ制限(4.5メートル)の鉄製バーに、ショベルカーのアームが引っかかって横倒しになった。2台のレッカー車で取り除き、約3時間40分後に復旧した。同線の東京−熱海間上下50本が運休、25本が最大3時間38分遅れ、10万5000人に影響が出た。【山衛守剛】 |
| 毎日新聞 2006年10月26日 22時30分 |
| コメント |
| このエラーは、ヒューマンファクターでは"Lack of Configulation Awareness"(形態認識の喪失)とよばれ、潜在意識が関与する典型的なエラーである。 |
| 運転手の潜在意識は、車に乗る時点で、特に意識することなく、車の形態(このケースでは、ショベルカーを搭載している状況)を長期記憶に記憶する。 |
| 初めて泊まるホテルのベッドで寝ていてもベッドから転落しないのは、部屋に入った時点で潜在意識がベッドの幅や高さを記憶して、睡眠中にも身体の位置を調整するからである。 |
| 通常の車の運転で、無意識に乗る車種の大きさを認識する「車幅感覚」も潜在意識によるものである。 |
| 運転手が前方の障害物(このケースでは、高さ制限の鉄製バー)を見た時点で、短期記憶が長期記憶に保存されたデータと瞬時に照合して、回避や停止するなどの行動をとる。 |
| しかし、疲労していたり、不十分な睡眠の後で短期記憶がまだ覚醒していないと、照合の機能が低下してこのようなエラーが発生する。 |
| 一般的に、潜在意識はかなりタフであるが、短期記憶を含む顕在意識は、疲労や睡眠不足、アルコール、薬物、加齢の影響を受けやすい。因みに、顕在意識が低下しても、顕在意識と潜在意識の連携が強固であれば、多くの状況に対応できるようになる。 |
| 近くは、本年8月14日午前7時38分に発生した、クレーン船による東電送電線接触事故がまったく同じエラーによるものである。因みに、ヘリコプターがヒューマンエラーで送電線に接触する事故もあり、送電線はあまり高くできない。 |
![]() (引用: Thje Asahi Shimbun) |
| 古くは、ANAグループのタラップ車がステア(階段)を立てたままJALのジャンボ機の下を走行し、尾翼部分を破損させたという同種事例がある。 |
| 道路交通事故で同種事例を探せば、枚挙に暇がない。 |
| 踏み切りに高さ制限のバーが取り付けられているのは、多くの場合、その場所に、架線が認識されにくいとか運転者の注意散漫を誘うような環境的要因があり、過去に架線を破損された経験があるからで、鉄道会社は架線保護のためにガードとして取り付けている。 |
| 一般的には、運転者の高さ制限の法令遵守の励行や環境の改善などの対策が思いつくが、これらは必ずしも現実的な対策とはいえず、再発を許す。なぜなら、わが国の道路インフラ整備は、必ずしも欧米先進国のように建設時にヒューマンファクター設計が考慮されているわけではなく、多くの個所に同種リスクが潜在しているからである。 |
| 結局のところ、運転者(特に大型第二種免許保持者)にその現実を理解させるとともに、ヒューマンファクター訓練を義務付けることが現実的な対応といえる。同様の理由で、航空機のパイロットには世界規模でヒューマンファクター訓練が義務付けられているが、残念ながら、潜在意識の領域にまで踏み込んだ訓練はまだなされていない。 |
| 今回のケースでは、ガードで架線の切断は免れて大幅なダイヤの混乱は避けられたが、さらに別の大きなリスクの可能性もあったわけであり、東電の送電線の事例と同じように、企業だけでなく行政を含む社会全体がヒューマンファクターの問題として関心を寄せなければならない。 |